PINKFOX 強制収容20

「・・・動くな!・・・PINKFOXだな?」
やがて彼女は豪華な部屋から出、下に降りていくところで本土からの護衛たちに捕まった。
空は快晴だが小さな島のあちこちで噴煙と爆発音が上がり、黒奇島のほとんどの機関センターが見るも無残に砕け散っていた。
恐らく本土側としてはここをさら地にしてしまい最後に沢山の死者の為の墓地を造って終わりにしたいに
違いない。
歩きながら周りを見、本部が陣を構える広場に連れていかれる美智子。
そこには背の高い司令官コノエが立っていた。
「・・・これは・・PINKFOX・・氏ですか?」
(?・・・・・・)
顔も知らない男だ。
「上から聞いています、昔世話になったと。そして今回もあなたのおかげで・・・・・あ、いや失礼」
確かにそうだ。
彼女が流した情報によって降板した大臣に代わってまたO氏が大臣なのだから・・命の恩人のようなものでは
あるのだが、今の彼女に政治なぞ興味なかった。
コノエは藤堂と違い好漢で、美智子を見、すぐに護衛たちにドレスを持ってこさせたが、美智子はクスッと笑い
違うお願いをした。
「私は・・・奴隷です。悪い行いをしたから自業自得なんです。ですからもし許されるのなら・・・・・」
つま先たちでコノエの耳にゴニョゴニョ吹き込む美智子。
「・・・・・う、うーん・・・それでいいのですか?あなたは・・・・(照)」
照れながらも嬉しそうに両手をお尻の後ろに伸ばして彼女はうなづいた。
頭のいい子だ。
この状況だと死はなく、おそらく・・恐らくはリョウタたちのいた島にまた戻されるのは分かっていたから・・
だが広がる噴煙と爆発音は相変わらずだ。
人の悲鳴が聞こえないのは美智子を捕獲する以前に惨殺してしまったのであろうが唯一の不安は
エリート女医がどうなったかだ。
運良よく島を抜け出しヤスシと会っているのかそれとも・・・
分からない。
ただ、天気はよく風も波もないから可能性としてはあるのだが。
やがて軍隊全てが浜に集結し黒奇島の制圧は全て終わった。
焼けた建物は全て黒コゲで人間がいたかも分からない状態で残ったのはどうやら彼女1人。
最初来た時にいた野人間も繋がれた奴隷たちも・・・いやそれだけではない。
女医と一緒にいた白衣の助手や品のない護衛たちもいない。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
さすがに声のない彼女だがその余裕もなくコノエは軍のヘリコプターに彼女を乗せわずかな思い出の残った
黒奇島を後にした。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
黙り込む美智子。
甘かった。
もしかすると本土にこのまま連れられていき死刑宣告をいい渡されるのかも知れない。
だがそれよりもこの国のやり方はどうなのだろう・・・
人は生きている。その同じ生き物の、しかも同じ種族の人間を黙認抹殺とは・・・美智子が暗愚したのは
罪のない人たちまで殺すのか?という現実の情けなさだ。
経済大国とは聞こえはいいが結局は金と地位欲しさに人間の皮を被った化け物たちが支配するのがこの
国なのか・・・
1人の女性として、馬渕美智子として彼女は思い、ヘリから見える壮観な景色の素晴らしさを忘れ
ただただ黙りこんだ。
そうとは知らずコノエは美智子につぶやく。
「・・・PINKFOX氏、もう着きますよ。怖くなかったら下を見てごらん・・・」
浮かない顔でチラ・・と見た彼女だが一瞬・・分からなかったがそこは見慣れた漁師や囚人小屋のある
リョウタたちのいる島。

「・・・・・・・!」

ヴァン!ヴァン!ヴァン!ヴアン!ヴアン・・・

乾いたヘリのプロペラ音が壊れたファンのように激しく轟く機内で彼女は驚き笑顔になりやがて・・・やがて
少しだけ泣いてしまった。


                                                            21に続く